コンピテンシーとは、簡単に言うと「高い成果につながる行動特性」を意味します。コンピテンシーの導入は、従業員の成長による業績改善にも有効な手段です。本記事ではコンピテンシーの意味を解説したうえで、コンピテンシーを人事に有効活用するための方法やポイントを解説します。
【コンピテンシーとは?】
まず、コンピテンシーの概要について確認していきましょう。
●コンピテンシーとは:ハイパフォーマーの行動特性
コンピテンシーは学者や企業により、それぞれ定義づけされていますが、人事領域においては「ハイパフォーマー(業務において高い成果を発揮している個人)の行動特性」と解釈されることが多い言葉です。
つまり「業績の良い人に共通している行動、その行動の背景に共通する性格・動機・価値観など」を指します。
●コンピテンシーが生まれた背景・歴史
コンピテンシーは1950年代には心理学用語として使用されていました。ビジネスの世界で用いられるようになったのは1970年代にアメリカのマクレランド教授による研究がきっかけです。
この研究で、
- パフォーマンス(業績の高さ)と学歴や知能には、さほど相関性はない
- ハイパフォーマー(高い業績をあげる者)には、共通の行動特性がある
ことが判明しました。
その後、人事領域におけるコンピテンシーとは「高い成果をあげることのできる個人の特性」と解釈されるようになりました。
1990年代に入ると、アメリカでコンピテンシーブームが起こり「コンピテンシーの氷山モデル」などが提唱されました。
考え方は以下のとおりです。
- 人の行動の目に見えやすい「スキル、知識、態度」に対して、目には見えにくい「動機、価値観、行動特性、使命感」など潜在的な部分が成果に大きく影響を与えている
- 行動の目に見える部分は氷山の一角であり、実際に氷山を動かしているのはその水面下の大きな部分である
日本企業で取り入れられているコンピテンシーの概念はこの流れをくんでおり、目に見えない部分を重視しています。
日本では年功序列制から成果主義へ移行し始めた頃、コンピテンシーが注目・導入されるようになりました。
●他の評価基準や関連語との違い
コンピテンシーと比較される人事用語には「コア・コンピタンス」「スキル」「アビリティ」「ケイパビリティ」があります。それぞれの意味は表のとおりです。
コンピテンシー | 優秀な成果を出す人に共通した行動特性 |
コア・コンピタンス | 企業の核となる技術や特色 |
ケイパビリティ | 企業が持つ組織的能力 |
スキル | 従業員の訓練や学習によって獲得した技術や能力 |
アビリティ | 従業員の技術や能力 ※スキルほど専門性が高くない |
・コア・コンピタンスとコンピテンシーの違い
コンピテンシーは個人、コア・コンピタンスは組織と使う対象が異なります。優秀な個人が企業にハイレベルな成果をもたらす力がコンピテンシーで、企業が社会や顧客にもたらす成果がコア・コンピタンスであると言えます。
・ケイパビリティとコンピテンシーの違い
コンピテンシーは個人に対して使い、ケイパビリティは組織に対して使う言葉です。
・スキルとコンピテンシーの違い
コンピテンシーは「優秀な成果を出すための力」で、スキルは「訓練や学習によって獲得した技術や能力」です。コンピテンシーは業績の高さに直結しますが、スキルが高い人材が優秀な業績をあげられるとは限らないという違いがあります。
・アビリティとコンピテンシーの違い
アビリティは元々「上手にできること」という意味を含みます。技術や能力を指しますが、スキルより専門性は必要ありません。コンピテンシーとスキルの違いと同じく、「技能や能力を発揮するための力」か、「技術や能力そのもの」かという点に違いがあります。
【コンピテンシーの活用シーンと導入のメリット】
コンピテンシーの概念は、主に以下4つのシーンで活用できます。
活用シーン | 導入のメリット |
①人事評価制度 | 評価の公平性を保ちやすくなる |
②採用基準 | 採用ミスマッチの減少 |
③人材育成 | 人材育成の効率化 |
④組織マネジメント | 業績の向上 |
●①人事評価制度
コンピテンシーの一般的な活用方法が人事評価制度です。高い成果を出しやすい人材像に焦点を当てることで成果に至る評価基準が明確になるため、客観的で納得感の強い評価制度が構築できます。
●②採用基準
コンピテンシーは採用基準の1つとすることが可能です。成果をあげている従業員のコンピテンシーを明らかにし、採用基準とすることで採用ミスマッチを防げます。
●③人材育成
社員教育や能力開発などの人材育成もコンピテンシーが活用できるシーンです。研修時に業務に求めるコンピテンシーを示し、成果につながりやすい行動や考え方を従業員に意識させます。そのうえで従業員自らどうなりたいかの目標設定をさせることで自発的な行動を促し、効率的な人材育成が可能です。
●④組織マネジメント
各部門や役職に求められるコンピテンシーを明らかにし、①〜③の活動を通して適材適所な人材配置ができます。コンピテンシーは個人に注目しますが、組織マネジメントにも役立ち、結果として業績の向上にもつながります。
【コンピテンシーを導入するデメリット、課題】
コンピテンシーの導入にはデメリットも生じます。導入前にチェックしておくべき課題についても確認しておきましょう。
●①コンピテンシーモデルの作成・運用に手間と時間がかかる
コンピテンシーモデルは部署や役職ごとに作成する必要があります。また、性格・社会性・意欲といった目に見えにくい要素の抽出が鍵となりますが、ヒアリングしても本人が自覚していない場合もあり、うまく言語化できるとは限りません。モデル作成後、運用するためには既存のシステムへの導入等が必要で、会社規模が大きいほど手間と時間がかかる傾向にあります。
●②導入後のメンテナンスが必要
導入しても成果が出なければ、理想とする人物像の再定義などの見直しが必要です。また、完成後も少なくとも2〜3年に1回は定期的見直しをして時代に合わせる必要があります。
●③社員への浸透が不十分だと、手段が目的化してしまう
人事主導でコンピテンシーを取り入れたものの、各部署の理解が不十分なために、手段が目的化してしまっているケースも見受けられるのが現状です。
【コンピテンシー導入手順:コンピテンシーモデルの作成方法】
コンピテンシーを導入する際には、「コンピテンシーモデル」の作成が必要です。「コンピテンシーモデル」とは、職種や役職に応じて、どのようなコンピテンシーの組み合わせが必要かを定義づけたもののことで、「組織が理想とする従業員像」とも言い換えられます。
以下にコンピテンシーモデル作成方法の一例を説明します。
●①組織に求める人物像の定義
組織の現状を分析し、今後の方向性を踏まえたうえで求められる人材像を検討し、定義づけていきます。同時に、求める人物像に合致する人材を社内から選出しておくことも必要です。
●②必要なコンピテンシーを仮定
次に①で定義した人物像に必要なコンピテンシーについて仮説を立てます。その際「コンピテンシー・ディクショナリー」と呼ばれる、それぞれの職種に必要なコンピテンシーを列挙し体系化したものを参考にするのが一般的です。
●③仮定コンピテンシーの検証
①で選出した人物や現在のハイパフォーマーにヒアリングを行い、必要なコンピテンシーの仮説検証を行います。詳細なコンピテンシー作成のためには、なるべく複数人にインタビューを行うことが望ましいです。
①〜③はコンピテンシーを特定するための手順ですが、「コンピテンシー診断」によっても特定できます。(コンピテンシー診断とは?選び方や注意点、厳選5ツールを徹底比較)を参照してください。
●④コンピテンシーのモデル化
ヒアリング結果から、ハイパフォーマーのコンピテンシーをモデル化します。その際、各コンピテンシーについて、5段階などでレベル設定を行います。
●⑤各種人事施策への活用
作成したモデルを活用する際には、導入の目的も含めて従業員が理解していることが大切です。
【コンピテンシー導入を成功に導くポイント】
最後に、コンピテンシーの導入を成功に導くためのポイントを3つ紹介します。
●まずは一部の部署から始める
コンピテンシーは全社での導入には時間と手間がかかります。まずは営業部門からなど、段階的に始めましょう。一部署で成功事例が出れば、他部署への周知や浸透もうまくいきやすくなります。
●可視化しにくい要素を定量化するツールを用いる
ヒアリングによる性格、社会性、意欲といった目に見えない要素の抽出には限界があります。
弊社の「HYOUMAN BOX」は、12,000社以上の人材データを基にした適性検査を実施することにより、受検者の性格や資質、ヒューマンスキル(臨機応変さ、ストレスコントロール力等)を定量化することを得意としたツールです。
こうしたツールを用いることでヒアリングの負担が減り、客観的で正確な分析が可能となります。定期的に受験し分析することで、定期メンテナンスにも対応しやすいのも特徴です。
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●従業員への周知
コンピテンシー活用の目的は成果の向上であることを念頭に、意義や目的を従業員自身が理解しながら導入を進めていく必要があります。
【まとめ】コンピテンシー導入は、企業の発展に貢献する
「高い成果を出す人の行動特性」という意味で用いられることの多いコンピテンシー。時代にあった採用・人事評価・人材育成方法を構築でき、企業の発展に貢献する概念ですが、導入には課題も多くあります。
人事において活用するには、成果を出す人の目に見える行動につながった「性格」「動機」「価値観」といった目に見えない要素を効率的に抽出し分析することが重要です。弊社「HYOUMAN BOX」は、これら可視化しにくい要素の定量化が可能です。ぜひ導入をご検討ください。